むかし話あれこれ

那須の与一と扇の的

第1話は源平合戦のこぼれ話から。 ぼくのモデル、那須の与一の弓の腕前を敵味方がともにたたえた という、 と〜ってもいい話です。

もう日は西にかたむいて、海がきらきらと夕日に輝きはじめていました。 すると、平氏方から、女官をのせた一そうの船が近づいてきました。 見ると、さおの先に、扇がたててあって、女官がしきりに手まねきをしています。この扇の的を、弓でいてみよというのです。 それは、平氏のいくさ占いでした。 うまくいおとせば源氏の勝ち。いそこなったら平氏の勝ちというわけです。

「誰か、あれをいおとせるものはおらぬか」 義経は、家来達をふりかえっていいました。 「殿、それには下野(栃木県)の住人那須与一宗高がよろしゅうございましょう」 「なにか、証拠があるか」 「はい、与一は、空飛ぶ鳥も、三羽ねらえば、二羽は必ずいおとすほどの名人でございます」 「よし、与一を呼べ」

呼ばれた与一は、まだ二十になるかならない、若い小がらなさむらいでした。 「与一、あの扇の的をいてみよ」 「とても、わたくしなどにはできそうもございませぬ。もし、いそこなっては、源氏の恥となりましょう」 「なにっ、ことわるのか。わしの命令が聞けないなら、さっさと鎌倉へ帰るがよいぞ」 義経は、きびしく言いわたしました。 与一は、それ以上ことわることができませんでした。

「もし、いそこなったら、二度と誰にもあわず、弓をおって死ぬまでだ」与一は心に決めました。そして、だまって馬にまたがり、海にのりいれました。 扇の的は波にゆられて、たえず右に左にゆれうごいています。目をつぶり、しばらく 神に祈ってから、ねらいをさだめて、はっしと矢をはなちました。 扇は、みごとに空にまいあがり、ひらひらと夕日に照らされて、もみじの葉のように海にちりました。 源氏から、どっとよろこびの声があがりました。平氏たちも、船ばたをたたいて、そのみごとさをほめました。