むかし話あれこれ

愛染寺の馬頭観音

むかし、原村に清八という男がおった。貧しい暮らしをしていたが、心はいたって優しく、もう働けなくなった年より馬をまるで家族のように大切にしておったと。

ある晩のこと、清八の家に、みすぼらしい六部(旅の坊さん)がやってきて、「ひと晩、とめてもらえまいか。」といった。「ええとも、さあさあどうぞ。」と家に招き入れ、一組しかないうすっぺらなふとんにねかせて、自分は物置のわらの中にもぐってねた。

さて、真夜中のこと。ふっと目を覚ました六部は「ああ、やっぱりふとんはあったかくて、ええ。毎晩こんなふとんにねられたらなあ。」と思っていると、馬小屋のほうから「六部どん、六部どん」と声がする。まさか馬が、と思ったが、見ると馬が口をきいている。確かに馬だ。

さて、六部が馬のそばに行くと、馬は「わしは、もうすっかり年をとり、まもなくこの世を去らなければならん。それで、ぜひ六部のおまえさまに頼みたい。 わしが死んだら、仏様のいなさる、極楽へいけるようにとむろうてほしいのだが、きいてくださるまいかのう。」といった。 六部はつくづくあわれみました。「馬でさえ、あのように極楽往生を願っている、かなえてやりたい。」と思った。

朝になって清八が馬小屋から首をひねりひねりでてきて六部に「馬が死んだ」と言いました。

六部は「馬とはいいながら、飼主の恩を忘れず、そのうえ信心深いとは人間に劣らぬ心がけ。それも清八、おまえが大事に育てたからじゃ。」とえらく感心して、りっぱな馬頭観音像をつくり、清八に渡した。

その仏像は、今も原の愛染寺の本尊として残っている。・・・・(実話)